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【流出解析】シリーズ 第10回 流出量・比流量・流出高の違い
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流出解析

1.はじめに

突然ですが皆さんは『流出量』,『比流量』,『流出高』の違いがわかりますか? 実を言うと,僕もつい最近まで勘違いしていました.

聞いたことはあるけど,違いがよくわからない『流出量』,『比流量』,『流出高』という用語について整理してみたいと思います. いつもの【流出解析】シリーズに比べてシンプルかつ難しい計算も少ない内容となっているので,気楽に読んでみてください.

【流出解析】シリーズ 一覧

【流出解析】シリーズ 第1回 流域界の決定と入力データの用意 【流出解析】シリーズ 第2回 貯留関数法【前編】 【流出解析】シリーズ 第3回 貯留関数法【後編】 【流出解析】シリーズ 第4回 流域実蒸発散量の推定―蒸発散比法― 【流出解析】シリーズ 第5回 実蒸発散量の推定―補完法― 【流出解析】シリーズ 第6回 タンクモデル 【流出解析】シリーズ 第7回 積雪・融雪モデル ―降雪量・融雪量の推定― 【流出解析】シリーズ 第8回 タンクモデルの最適化 【流出解析】シリーズ 第9回 単位図法 【流出解析】シリーズ 第10回 流出量・流出高・比流量の違い 【流出解析】シリーズ 第11回 表面流モデル【定常降雨:前編】 【流出解析】シリーズ 第12回 表面流モデル【定常降雨:後編】

2.流出量,比流量,流出高の違い

さっそくこれらの用語の違いについて整理してみましょう.

2.1.流出量とは?

流出量とは,ざっくり言えば河川の流量のことです. そのまんまの説明で申し訳ないですが,川を流れている水の量です. 単位はm3/s(1秒間に流れる水の体積(m3))で表されることが多いです. 流量観測で得られる流量データは流出量のことだと考えてもらえればいいと思います. ちなみに,直接流出量とか基底流出量とかを考え始めると話がややこしくなるので触れませんが,そういうものもあるということだけ知っておいてください.

ちなみに流出量についてはこちらの記事で詳しく解説しています.

【流出解析】シリーズ 第1回 流域界の決定と入力データの用意 【流出解析】シリーズ 第2回 貯留関数法【前編】

2.2.比流量とは?

比流量とは「流出量(m3/s)を流域面積(km2)で割ったもの」です. 例えば,河川のある地点における流量が500 m3/sだったとします. この流量は多いでしょうか?少ないでしょうか?

答えは「わからない」です. 例えば,流域面積がものすごく小さければ500 m3/sという流量はとても多いかもしれません.台風のときに観測された流量が500 m3/sかもしれません. 逆にものすごく大きな流域では500 m3/sという流量はとても少ないかもしれません.記録的な干ばつが起きたときに観測された流量が500 m3/sかもしれません.

つまり,流量だけを見てもその量が多いか少ないか単純に判断できません. そこで登場するのが比流量です.

流量を流域面積で割ることで流量の多寡を判断できますし,異なる流域の流量を比較することができます. それだけでなく流域特性が似ているかどうかの判断材料にもできます.

流出解析ではモデルを使おうとしても計算に必要な全ての項目を観測によって得られるとは限りません. 観測項目不足でパラメータを決定できない,そもそもモデルの入力用データがない,など. 予算や地理的な制約によって観測機器を設置できない場合もあります.

そういう場合には流域特性がだいたい同じ流域における流出モデルのパラメータやデータを使用する場合があります. このとき流域特性がだいたい同じかどうかを判断するために比流量を比較したりします.

2.3.流出高とは?

流出高とは流出量(m3/s)を流域面積(km2)で割って単位を(mm/d)に変換したものです. なんだか比流量と似ていますね.

なぜ,こんな似た用語が存在しているかというと流出モデルで計算するときは流出量や比流量よりもmm/dという単位をもつ流出高の方が計算しやすいからです. 一番わかりやすい例はタンクモデルです.

タンクモデルの計算では,降雨量,蒸発散量,融雪量,流出高などを扱います. ものすごく簡単に言ってしまえば,タンクモデルはこれらの量の四則演算をしているだけです. 当然ですが,単位がバラバラだと計算しづらいですよね? そこで単位をmm/dに統一するために流出高を使うわけです.

まとめ

・流出量は河川流量(m3/s)のこと. ・比流量は流出量(m3/s)を流域面積(km2)で割ったもの.流域間の流域特性の違いなどを比較するときに使う. ・流出高は比流量の単位をmm/dに直したもの.流出モデルの計算のしやすさのためだけにに存在している.(そう言い切っていいのか知らんけど)

3.流出量,比流量,流出高の多寡を判断できることの大切さ

流出量』,『比流量』,『流出高』の違いを理解することは大事ですが,およそどれくらいの値になるか知っておくことも大事です. 例えば,流出解析の結果が合っているかどうかを判断する材料になります. また,勉強するときや論文を読むときの理解度もかなり変わってくると思います.

ということで,実際に全国各地の流出量,比流量,流出高を見てみましょう.

時間と労力の都合上,気象庁のHPの情報をもとに気候条件の異なる全国の11地点としました(下記の地図).

気象庁:日本の気候

NationalWatershed.png データの種類や充実度,観測所諸元(流域面積や計画高水流量の有無など)をもとに決めているので,選んだ観測所にやや偏りがあるのはご容赦ください. 選んだ観測所は下表の通りです. 期間は2004〜2006年の3年間です.

No. 都道府県 観測所名 河川名 流域面積(km2) 計画高水位(m) 計画高水流量(m3/s)
1 北海道 広里 新釧路川 2172.10 5.30 1200.00
2 秋田県 椿川 雄物川 4035.00 9.89 8700.00
3 埼玉県 寄居 荒川 905.00 7.61 6300.00
4 新潟県 高田 関川 703.00 6.68 3700.00
5 岐阜県 万石 揖斐川 1196.00 7.09 3900.00
6 兵庫県 軍行橋 猪名川 322.80 5.57 2400.00
7 広島県 山手 芦田川 798.80 5.83 2800.00
8 高知県 伊野 仁淀川 1463.00 10.15 14000.00
9 福岡県 日の出橋 遠賀川 695.00 8.46 4800.00
10 鹿児島県 豊栄 串良川 120.00 5.65 800.00
11 沖縄県 稲搗橋 羽地大川 12.00 - 110.00

流出量・比流量・流出高のハイドログラフは以下のようになります. 洪水時と渇水時で河川流量が数桁違うということは珍しくなく,そのままグラフにすると非常に見づらいため対数軸を使うのが一般的です.

流出量

流量は流域の規模によってかなり異なるため,そのままでは流域間で比較しづらいことがグラフからわかりますね. 流出量1.png 流出量2.png

比流量

比流量が1を超えると結構大きい洪水だと言われています.覚えておきましょう. 比流量1.png 比流量2.png

流出高

流出高は降水量と比較するとイメージしやすいです. 最新のデータによると日本の平均降水量は1718 mmです. ざっくり考えれば,地表に降った雨は蒸発散と流出に分配されます.仮に蒸発散が4割,流出が6割とすると1年で約1000 mm流出することになります.単純に1日あたりで考えれば,約3 mm/dの流出高になります. 流出高のハイドログラフを見てみると,洪水時は100 mm/d近くになる一方,渇水時は1 mm/dを下回ることもあるようですね. 流出高1.png 流出高2.png ちなみに日本の年降水量はこんな感じです. メッシュ平年図.png

気象庁:メッシュ平年値図

4.おわりに

最後までお付き合い頂き,ありがとうございました.

流出量』・『比流量』・『流出高』の違いは理解できましたか? また,それぞれがどれくらいの値を取るかわかりましたか? 今回はこの2点を理解してもらうことを目的とした記事なので,いくつか問題もあります.

例えば,流域面積の正確さや流量データの異常値の有無などについて特に考えていない(国交省のデータが完璧に正しいという前提で話を進めてきた). 流域ごとの土地利用や降水量,蒸発散量など一切考えず流量データのみしか見ていない,など.

とはいえ,学生や若手技術者の方が『流出量』・『比流量』・『流出高』の違いを理解し,だいたいの値を把握することの助けになれば記事の目的は果たせたのではないかと思います.

それでは,また次回の記事でお会いしましょう.

今後も農業農村工学(水文学,かんがい排水,土壌物理,水理学)を中心に記事を執筆していきたいと思います. リクエスト等も受け付けておりますので,ご遠慮なく連絡ください. Twitterアカウント:エビぐんかん@6LxAi9GCOmRigUI メール:nnCreatorCircle@gmail.com

検索用Key Words: 流出解析,水文学,気象,河川流量,流出量,流出高,比流量

引用・参考文献

寒地土木研究所 寒地水圏研究グループ 水環境保全チーム:現場のための水文学

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