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NanoVNAでTDR測定ができる原理
土壌物理学
土壌水分、センサー、TDR、低コスト化

1.はじめに

 本記事では、ベクトルネットワークアナライザでTDR測定ができる原理について説明します。下記の記事で紹介しているNanoVNAを使ったTDR土壌水分センサーを作る上で原理を理解している必要はありません。あくまで原理が気になる人向けの記事になります。 また、本記事では細かい数式の話は省略して、あくまでエッセンスのみを取り上げて説明します。

前編:材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【前編】 中編:材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【中編】 後編:材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【後編】 総集編:材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【総集編】

2.NanoVNAとTDR測定について

TDR原理.png  電子回路の透過・反射特性などの評価に使われる測定器のNanoVNAにはTDR測定機能があります。したがって、TDR土壌水分センサーを作ることができます。TDR土壌水分センサーはステップ応答から伝搬時間を求め、比誘電率、体積含水率と順に計算していくことで土壌水分を求めることができます。  NanoVNAを使った土壌水分センサーでは、まずNanoVNA本来の機能を使って土壌の反射特性を取得します。これをフーリエ逆変換することでインパルス応答を得ることができ、さらに時間について積分することでステップ応答を得ることができます。つまり、本来のTDR土壌水分センサーと同じようにステップ応答を求めることができるので土壌水分が求められるというわけです。今回は一番わかりにくいであろうフーリエ逆変換部分について簡単に説明したいと思います。

3.反射特性からインパルス応答へ

デルタ関数_t0.png 反射特性からインパルス応答への変換を考えるには2つの知識が必要になります。1つ目はデルタ関数(ディラックの衝撃関数)ですデルタ関数は次式で定義される関数です。

\[ \delta (t) = \begin{cases} \infty &(t = 0) \\ 0 &(t \neq 0) \end{cases} \]
\[ \int _{- \infty} ^{ + \infty} \delta (t) dt = 1 \]

 現実の問題としてインパルス(時間が無限小で大きさが無限大のパルス)を取り扱う場合に、幅が0だと都合が悪いので実際には上図のように幅がとても短いパルスで考えます。  2つ目に必要な知識はフーリエ変換です。\( f(t) \)のフーリエ変換を\( F ( \omega )\)とするとき、フーリエ変換は次式で定義されます。

\[ F( \omega ) = \dfrac{1}{\sqrt{2\pi}} \int _{- \infty} ^{ + \infty} f(t) e ^{-i \omega t} dt \]

なお、ここでは数学的な細かい話にはあまり立ち入ると話が脱線するので、深くは考えず話を進めたいと思います。\( t \)の関数\( f(t) \)をフーリエ変換すると\( \omega \)の関数\( F ( \omega )\)になる、ということだけ理解してもらえれば大丈夫です。そして、この逆の処理がフーリエ逆変換になります。つまり、\( \omega \)の関数\( F ( \omega )\)をフーリエ逆変換すると\( t \)の関数\( f(t) \)になります。

関係図.png  ここで登場する用語(インパルス応答、周波数特性、インパルスなど)の関係を見てみましょう。左下にある幅の短いパルスがインパルスです。現実の問題としてインパルスを取り扱う場合に、幅が0だと都合が悪いので実際には上図のように幅がとても短いパルスで考えます。詳しい説明は省略しますが、インパルス信号はいろんな周波数の正弦波が合成されたものです。つまり、インパルス信号をフーリエ逆変換したものが、左上のインパルス信号の周波数スペクトルです。

https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/eMM_back/emm132.pdf

そして、いろんな正弦波を土壌に入力して、その応答波形を周波数領域で表したものが右上にある(周波数領域の)反射特性です。また、土壌にインパルス信号を入力して、その反射波形を時間領域で表したものが右下のインパルス応答になります。

NanoVNA自体はあくまでいろんな周波数の正弦波を土壌に入力して、その応答を調べるだけです。ただし、いろいろな周波数の正弦波に対する応答をフーリエ逆変換することで周波数領域から時間領域に変換することができるというわけです。

https://www.keysight.com/jp/ja/assets/7018-02476/white-papers/5990-5446.pdf

簡単ではありますが、以上がNanoVNAでTDR測定ができる原理に関する説明になります。もし、更に詳しく知りたいという方がいましたら、この記事に登場するキーワードを検索してみてください。ネット上の記事や、信号処理の参考書、電子工学の参考書などに詳しい数式付きで紹介されています。

4.おわりに

 最後までご覧頂き、ありがとうございました。

記事の内容に関してお気づきの点やご質問等がありましたら,ご連絡いただけますと幸いです. リクエスト等も受け付けておりますので,ご遠慮なく連絡ください. Twitterアカウント:エビぐんかん@6LxAi9GCOmRigUI メール:nnCreatorCircle@gmail.com

引用・参考文献

1) KEYSIGHT TECHNOLOGIES:ベクトル・ネットワーク・アナライザとオシロスコープによるTDR測定の相関の検証と性能の比較 2) 眞鍋秀一、2014.ネットワーク・アナライザを用いたTDR測定の優位性について.MWE2014.WSI12-04. 3) 石村園子:やさしく学べるラプラス変換・フーリエ解析増補版、共立出版株式会社、2010、p.36