今回は、材料費3万円でTDR土壌水分センサーとデータロガーの記事の中編になります。
前編は→材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【前編】 中編ではキャリブレーション、ロガーの環境構築について説明し、最後に制作したシステムで土壌水分を測定した結果を示します。 後編では、ロッド長の補正と低価格化方法を紹介したいと思います。 総集編はこちら材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【総集編】
NanoVNAでTDR測定するためには、測定条件の設定とキャリブレーションが必要になります。 参考資料は下記の通りです。
大井克己:アマチュア無線で大活躍のRF測定器 NanoVNA活用ガイド、CQ出版株式会社、2023、pp.6-11 同軸ケーブルの長さを測る 〜 NanoVNA単体編 NanoVNAを購入してみた
設定条件は次の通りです。今回はできるだけ広い範囲の土壌水分を測れるように測定点数を切り替えながら測定します。
まず、NanoVNAのキャリブレーションに必要な機材を用意します。
金色の小さな部品はNanoVNAに付属しているキャリブレーション用の端子(左からopen、short、load)です。
NanoVNAに1.5mの同軸ケーブルを接続します。
NanoVNAの電源を投入します。
ジャック→プラグ変換端子を使ってopenの端子を接続します。
NanoVNAの画面を1回タップすると画面右側にメニューバーが表示されます。一番上の「DISPLAY」をタップします。
「TRACE 1」を何回かタップすると「TRACE 1」ボタンの背景が灰色になります。
同様に「TRACE 2」、「TRACE 3」も背景が灰色になるようにタップします。
これで不要な「TRACE 1」、「TRACE 2」、「TRACE 3」を非表示にできました。
「←BACK」ボタンをタップしてひとつ前の画面に戻った後「FORMAT」ボタンをタップします。
初期状態では「LOGMAG」が選択されています。
「→MORE」ボタンをタップして画面を切り替えてから「LINEAR」をタップして選択します。
「←BACK」ボタンをタップしてひとつ前の画面に戻った後「TRANSFORM」ボタンをタップします。
「TRANSFORM OFF」をタップして「TRANSFORM ON」に切り替えます。
また「LOW PASS STEP」をタップして選択します。
「←BACK」ボタンをタップして最初の画面に戻った後「STIMULUS」ボタンをタップします。
「START」ボタンをタップするとテンキーが表示されるので「50k」と入力します。
今度は「STOP」ボタンをタップします。再びテンキーが表示されるので「1G」と入力します。
「SWEEP POINTS」が「51」になっていることを確認します。
「←BACK」ボタンをタップして最初の画面に戻った後「CALIBRATE」ボタンをタップします。
画面の一番上の「CALIBRATE」をタップします。
「OPEN」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「OPEN」の前にチェックマークが付きます。
キャリブレーション用の端子をopenからshortに付け替えます。
NanoVNAの画面の「SHORT」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「SHORT」の前にチェックマークが付きます。
キャリブレーション用の端子をshortからloadに付け替えます。
NanoVNAの画面の「LOAD」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「LOAD」の前にチェックマークが付きます。
NanoVNAの画面の「ISOLN」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「ISOLN」の前にチェックマークが付きます。
キャリブレーション用の端子のloadを外して同軸ケーブルを繋ぎ、NanoVNAのCH1ポートに接続します。
NanoVNAの画面の「THRU」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「THRU」の前にチェックマークが付きます。「DONE」をタップします。
「SAVE 0」をタップします。これでキャリブレーションが完了しました。「←BACK」を何度かタップしてメニューバーを閉じます。
まず、マイクロSDカードにOSイメージを書き込みます。 「ラズパイ 環境構築」で検索するとたくさん解説記事が出てきます。
ユーザー名はpi、パスワードはraspberryにしています(デフォルトのまま)。 今回はメジャーなライブラリしか使っていないので、だいたいのバージョンで動くと思いますが、もし動かない場合は下記バージョンのOSをインストールしてください。 OS:Raspberry Pi OS(64-bit) リリーズ日時:2024/7/4 (ちなみに筆者の環境ではRaspberry Pi Imager v1.8.5を使用しました。) OSインストール時にソフトウェアップデートを実行するようにします。
「Ctrl」+「Alt」+「T」でTerminalを起動してください。 下記のコマンドを実行して測定用コードのインストールと必要なライブラリのインストールと設定をします。
~ $ sudo apt-get update
~ $ sudo apt-get upgrade
~ $ sudo reboot
~ $ git clone https://github.com/ebi-gunkan/SoilMoistureSensorTDR.git
~ $ cd SoilMoistureSensorTDR
次のコマンドを実行すると土壌水分が1回測定されます。その後、1時間に1回の頻度で測定されます。 「Ctrl」+「C」が押されるまで測定を繰り返します。
~/SoilMoistureSensorTDR $ bash ./Execute_Measurement.sh
生データはraw_dataフォルダ内に格納されます。 以下のコマンドを実行すると生データから比誘電率を計算します。
~/SoilMoistureSensorTDR $ python3 ./Calc_RelativeDielectricConstant.py
誘電率のデータはrelative_dielectric_constant_dataに保存されます。 波形の確認のために生データも大切に保管してください。
自作したプローブ、キャリブレーション済みのNanoVNA、環境構築済みのラズパイを写真のように接続します。
近所で土を採ってきて風乾します。
それを紙コップに入れ、プローブを挿して測定してみます。
キャリブレーションした状態では図のような波形になります。ただし、土の種類や水分量によって波形は多少異なります。
余談ですが、NanoVNAの仕様(?)で反射係数は正の値しか表示されないようです。そのため反射係数がマイナスになるときに折り返して表示されます。なお、USB経由で読み出されるときは正負の区別がつくようになっています。
プラスチック製のカップに風乾土を詰めました。
カップの下部には、土が漏れ出ない程度の穴を予め空けてあります。水を張った容器にカップを入れて24時間静置して土を飽和させます。
TDR波形はこのようになりました。
土壌表面での反射波の到達時刻が土壌水分に応じて動いているの若干が気になりますが、波形自体は概ね既往研究通りといった感じでしょうか。
また、脱水過程における比誘電率と土壌水分の関係は図のようになりました。土壌水分は重量を測定して求めています。
プローブ終端での反射波到達のタイミングは勾配の変化率から決定しています。
(20240904追記:土壌表面での反射波の到達時刻、プローブ終端での反射波の到達時刻の求め方を間違えていました。これにともない、同軸ケーブルの長さを変える必要が出てきたので、後編で再測定しつつ計算法も修正したいと思います。既往研究(Topp,1980)とずれている理由はそれなので、いったんこの図は無視しておいてください。とはいえ、土壌水分が増えれば比誘電率が増えるという現象自体は問題なく捉えることができているので、再測定・再計算すれば特に問題ないと見込んでいます。)
既往研究(Topp,1980)との差について考えたいと思います。 今回の測定ではプローブを土壌表面に対して鉛直に挿しています。土の充填高さはロッドよりも長いため、蒸発が進むにつれて、カップ内全体での土壌水分とセンサーの測定範囲の土壌水分に乖離が生じます。TDR土壌水分センサーは本来、水平に近い状態で挿して使うため、別の記事で土を入れる容器を改良して、再測定したいと思います。それと比誘電率の計算方法についても調べ切れていないため、若干間違っている可能性もあります。これに関しては再測定のときにインパルス応答を測定するとともに、計算方法についても文献をもう少し調べてみる予定です。体積含水率が高い領域のデータも取れていないため、再測定の時に合わせて取りたいと思います。 既往研究との差に関する他の要因としては、プローブ長、土壌水分の測定の正確さなどが考えられます。プローブ長は普通の定規で測定しています。測定結果への影響はあまり大きくないとは思いますが、多少の誤差はあります。土壌水分の測定も同様に家庭用のはかりで測定しているので大学などにある精密な電子天秤に比べると、どうしても誤差は大きくなります。 以上のように今のシステム構成や測定方法にはいくつか問題があるとは思いますが、土壌水分に応じて比誘電率が変化するという傾向はとらえることができているので初回にしては上出来だと思います。後編でこれらの問題の解決に取り組みたいと思います。
ざっくり調べた感じでは、市販のTDR土壌水分センサーは精度2〜3%のことが多いようです。これは、測定したい土壌水分の範囲に対してセンサーの分解能をそこまで上げることが難しいためと考えられます。今回の測定でも土壌水分が2〜3%ほど変化して比誘電率が1段階変化するというような挙動をしています。これについてはもう少し高価なNanoVNAを購入して、最大周波数(STOP周波数)を上げて測定点数を増やすことでいくらか改善はされると思います。一方で、最大周波数を上げると接続用基板などの寄生容量の影響が強く出るようになるため、既往研究(Topp,1980)の測定データとは若干乖離する可能性があります。とはいえ、自分で較正曲線を作れば、この問題はある程度解決するとは思います。 体感では最大周波数1.2GHzくらいまでなら上げれそうな気もします。ただ、文献レビュー含め十分に検証する必要があります。
測定条件やプローブにはまだまだ改善すべき点がありますが、まあまあいい感じではないでしょうか。研究、実務、勉強学生実験などで皆さんも利用してみてください。
今回作った土壌水分センサーとロガーには下記のような課題があるので、後編などで改善したいと思います。下記の課題を理解したうえでご使用頂くよう、お願いします。
測定用のプログラムなどは下記URLで公開しています。 https://github.com/ebi-gunkan/SoilMoistureSensorTDR
最後までご覧頂き、ありがとうございました。
紹介した土壌水分センサーとデータロガーにはまだまだ改善すべき点がたくさんありますが、既製品に比べてかなり安く自作できるのは大きな魅力ではないでしょうか。 後編ではこれらの課題を解決して、より実用的な土壌水分センサーとデータロガーを作りたいと思います。
ちなみに前編はこちら。
今回紹介したTDR土壌水分センサー+データロガーは自腹で作るには少々高価ですが、大学の研究室や会社に所属しているのであれば作りやすいと思います。土壌物理学の勉強にもなるのでぜひ挑戦してみてください。
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引用・参考文献
宮崎毅、長谷川周一、粕渕辰昭:土壌物理学、朝倉書店、2005、pp.103-105 宮崎毅、西村拓:土壌物理実験法、東京大学出版会、2011、pp.177-182 DavidDavid Moret-Fern?ndez、Francisco Lera、Borja Latorre 、Jaume Tormo、Jes?s Revilla、2022.Testing of a commercial vector network analyzer as low-cost TDR device to measure soil moisture and electrical conductivity.Catena.218、106540. KEYSIGHT TECHNOLOGIES:ベクトル・ネットワーク・アナライザとオシロスコープによるTDR測定の相関の検証と性能の比較 眞鍋秀一、2014.ネットワーク・アナライザを用いたTDR測定の優位性について.MWE2014.WSI12-04. G.C.Topp、1980.Electromaginetic Determination of Soil Water Content:Measurements in Coaxial Transmission Lines.WATER RESOURCES RESERCH.16-3、574-582. 堀野治彦、丸山利輔、1993.3線式プローブによる土壌水分のTDR測定.農土論集.168、119-120. 堀野治彦、丸山利輔、1992.TDRによる土壌の体積含水率および電気伝導度の測定について.土壌の物理性.65、55-61. トランジスタ技術編集部:RFワールドNo.54 通販ガジェッツで広がるRF測定の世界、CQ出版株式会社、2023、pp.52-59 トランジスタ技術編集部:RFワールドNo.13 はじめての無線機測定、CQ出版株式会社、2013、pp.127-132 石村園子:やさしく学べるラプラス変換・フーリエ解析増補版、共立出版株式会社、2010、p.36