材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【総集編】<h1>材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【総集編】</h1>
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材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【総集編】
土壌物理学
TDR、土壌水分、水ポテンシャル、測定、実験

1.はじめに

 材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガーの総集編です。過去に公開した下記3記事の内容をまとめた記事になります。前編〜後編は試行錯誤しながら記事を書いていたため、ややわかりにくい箇所があったと思います。この記事では改めてTDR土壌水分センサーとデータロガーの作り方を紹介したいと思います。

前編:材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【前編】 中編:材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【中編】 後編:材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガー【後編】

2.TDR土壌水分センサーをとりまく現状と提案するシステム

 TDRは屋外で連続的に土壌水分を測る方法としては最もポピュラーな方法です。土壌水分を測る研究においては欠かせないものですが、その測定原理ゆえに測定器が高価になりがちです。そのため、土壌水分の多地点計測は現実的ではありません。今回紹介するTDR土壌水分センサーとロガーは合わせて材料費2万円で作ることができます。紹介するシステムであれば多地点計測も十分可能です。制作時間も1時間程度とかなり短いです。作りやすさを意識した構成のため材料費が2万円ですが、工夫をすれば1万円程度で作ることも可能になります。材料は全てamazonやホームセンターなど身近なお店で手に入ります。工具さえ揃えれば誰でも容易に作ることができるので、研究や実務で土壌水分を測りたい方はぜひ試してみてください。

3.土壌水分の測定方法

 土壌水分を測る方法には、採取した土壌サンプルを実験室で炉乾法により測定する方法と、屋外に測定器を設置して連続的に測定する方法があります。炉乾法は土壌水分の測定法の基準となっていますが、これはあくまで採取したサンプルの土壌水分を測る方法のため、例えば1時間に1回の頻度で圃場の土壌水分を測るような場合には不向きです。連続して測りたい場合は屋外に土壌水分センサーとデータロガーを設置する方法をとります。土壌水分センサーは色んな種類がありますが、TDR土壌水分センサーが最もポピュラーな方法です。これは他の測定法に比べて精度が高い、測定領域が広い、土壌鉱物の影響をあまり受けないため多くの土に適用できるなどメリットが多いためです。土壌水分が変化すると土壌の誘電率が変化します。TDRは誘電率を測定できる手法なので土壌水分センサーとして利用されます。

宮崎毅、長谷川周一、粕渕辰昭:土壌物理学,朝倉書店,2005,pp.103-105.

4.TDR土壌水分センサーの原理

TDR本来の使い方.png  まずはTDRについて説明します。細かい原理を理解しようとすると大変なので、ざっくりとした理解で大丈夫です。TDR(Time Domain Reflectometry)は時間領域反射といいます。もともとは長距離通信ケーブルの断線場所の検知などに使われる技術です。あるケーブルにステップ波という電気信号を与えると、その電気信号がケーブル中を伝わり、断線箇所まで到達すると波が反射されます。波が反射されて返ってくるまで時間は、断線箇所までの距離に比例します。そのため、反射波が返ってくるまでの時間を測定することでケーブルの断線箇所を検知することができます。これがTDRです。ステップ波を生成するファンクションジェネレーターと反射波を観測するオシロスコープを用いることでこれを実現できます。

土壌水分測定におけるTDRの使い方.png  電気とか波とか一見すると土壌物理には関係しないように見える話題ですが、実はTDRを使うことで土壌水分を測定することができます。土にプローブという金属の棒を挿して、ステップ波を与えると、ステップ波が反射されます。このとき土壌水分が多いほど反射波が返ってくるまでの時間が長くなります。つまり、反射波が返ってくるまでの時間を測定することでケーブルの断線箇所までの距離がわかるのと同様に、反射波が返ってくるまでの時間を測定することで土壌水分を測定することができます。

反射.png  ステップ波の反射についてもう少し詳しく説明します。土壌にプローブを挿入してステップ波を印可すると上図のような反射波形(ステップ応答)を得ます。インピーダンス不整合点である土壌表面とプローブの終端でステップ波が反射が起きることで、このような波形になります。「ステップ波」とか「インピーダンス」とか聞きなれない言葉が多いかと思います。ここでは、このようなグラフ形状になるということだけ理解してもらえれば大丈夫です。

 ロッド終端での反射時刻と土壌表面での反射時刻の差を\( t \)としたとき土壌の比誘電率\( \epsilon _{r} \)は次式から求められます。ただし、\( c \)は光速、\( L \)はロッド長です。

\[ \epsilon _{r}= \left( \dfrac{ct}{2L}\right) ^{2} \]

 比誘電率は土壌水分に応じて変化します。そのためTDRセンサーで比誘電率を測定することで土壌水分を測定できます。ここまで、TDR装置に着目して説明してきたので、もう少し土壌物理学に寄った説明を知りたい方は下記参考文献をご覧ください。

堀野治彦、丸山利輔、1993.3線式プローブによる土壌水分のTDR測定.農土論集.168、119-120. 堀野治彦、丸山利輔、1992.TDRによる土壌の体積含水率および電気伝導度の測定について.土壌の物理性.65、55-61. 宮崎毅、長谷川周一、粕渕辰昭:土壌物理学、朝倉書店、2005、pp.103-105 宮崎毅、西村拓:土壌物理実験法、東京大学出版会、2011、pp.177-182

5.NanoVNAのTDR機能と土壌水分測定

 TDR土壌水分センサーは他の測定法に比べて精度が高い、測定領域が広い、土壌鉱物の影響をあまり受けないため多くの土に適用できるなどメリットが多いです。一方デメリットもあり、なんといっても価格が高いです。ファンクションジェネレーターやオシロスコープは数十万円するものが必要になります。また、TDR測定専用のケーブルテスターという機器もありますが、同様にとても高価ですし、屋外で長期間使用するのには不向きです。そのため、市販のTDR土壌水分センサーとデータロガーを組み合わせて測定することが一般的ですが、それでも1台で数十万円が必要になります。十分な資金のある研究や事業であれば問題ないかもしれませんが、基本的には金額的な負担が大きく導入が難しいです。しかし、この記事で紹介するベクトルネットワークアナライザー(NanoVNA)を使う方法であればセンサーとデータロガー全て込みで2万円以下で土壌水分を測定することが可能になります。既存の土壌水分センサーは高価なため多地点計測は夢のまた夢といってもいい状況ですが、NanoVNAを使えば多地点計測も十分実現可能であり、気温や湿度と同じくらいたくさんの地点でデータを取れるようになります。

NVAとTDR土壌水分センサー.png  ベクトルネットワークアナライザー(VNA)を使う方法について説明します。ベクトルネットワークアナライザー(VNA)とは電気・電子分野で使われる測定機器で、電子回路に電気信号を入力したときの反射特性や透過特性を測定するものです。ベクトルネットワークアナライザー(VNA)で得られた反射特性のデータを処理することでTDRと同じことができます。つまり、先ほど説明したファンクションジェネレーターとオシロスコープの機能をベクトルネットワークアナライザー(VNA)だけで実現することができます。ベクトルネットワークアナライザー(VNA)でTDR測定ができる原理は専門的な話になるので、詳細は割愛したいと思います。気になる人のために簡単に原理を説明すると、周波数ドメインの反射特性をフーリエ逆変換することで時間ドメインに変換しインパルス応答を得ることができます。それを積分することでステップ応答が得られるため、TDR測定が可能になります。興味のある方は下記参考文献をご覧ください。

KEYSIGHT TECHNOLOGIES:ベクトル・ネットワーク・アナライザーとオシロスコープによるTDR測定の相関の検証と性能の比較 眞鍋秀一、2014.ネットワーク・アナライザを用いたTDR測定の優位性について.MWE2014.WSI12-04. G.C.Topp、1980.Electromaginetic Determination of Soil Water Content:Measurements in Coaxial Transmission Lines.WATER RESOURCES RESERCH.16-3、574-582. トランジスタ技術編集部:RFワールドNo.54 通販ガジェッツで広がるRF測定の世界、CQ出版株式会社、2023、pp.52-59 トランジスタ技術編集部:RFワールドNo.13 はじめての無線機測定、CQ出版株式会社、2013、pp.127-132 石村園子:やさしく学べるラプラス変換・フーリエ解析増補版、共立出版株式会社、2010、p.36

 ベクトルネットワークアナライザー(VNA)も元々は高価な機器ですが、近年NanoVNAと呼ばれる1万円未満のベクトルネットワークアナライザー(VNA)が登場したおかげで低コストのTDR土壌水分センサーを作ることが可能になりました。

6.NanoVNAを使った土壌水分センサー+データロガーの構成

システム構成図_最終形.png  今回紹介する土壌水分センサーとデータロガーのシステム構成は上図の通りです。電気信号を土壌に伝えるためのプローブ部、TDR測定をするNanoVNA、データロガーの役割を担うRaspberry Pi Zero 2 Wで構成されます。今回はプログラミングの知識がない方でも作りやすいような構成にしていますが、NanoVNAを改造することでRaspberry Pi Zero 2 Wが不要になるため1万円程度で作ることも可能です。

7.作り方

7.1.部品

 材料はamazonと秋月電子通商のオンラインショップで揃います。コストはやや高くなりますが、amazonで全ての材料を購入することもできます。コストを抑えることを考えるなら、amazon、秋月電子通商、ホームセンターで一番安いものを購入してください。

品名 規格 価格(円) 1台当たりの必要数 1台当たりの価格(円) 購入先
Raspberry Pi Zero 2 W 3,660 1 3,660 amazon商品ページ
マイクロSDカード64GB 1,394 1 1,394 amazon商品ページ
USBアダプター BSMPC11C01BK 420 1 420 amazon商品ページ
USBハブ U3H-K315BBK 1,769 1 1,769 amazon商品ページ
HDMIアダプター ECAD-HDAC3BK 545 1 545 amazon商品ページ
1.5m同軸ケーブル JCCSM15MRG316SM20R 550 1 550 秋月電子商品ページ
NanoVNA NanoVNA-H4 50k-1.5G 8,881 1 8,881 amazon商品ページ
★ロッド側圧着端子 R8-6 266 3 53 amazon商品ページ
★接続用基板側圧着端子 R1.25-3 211 3 158 amazon商品ページ
★はんだ 電子工作用1mm 366 約10cm分 12.2 amazon商品ページ
★ステンレス棒 Φ3mm、100mm 3 600 300 amazon商品ページ
★M3.5 16mmねじ、ナット、ワッシャー EO-551 約300円 ねじ5、ナット8、ワッシャー6 約200円 ホームセンター
SMAエッジマウントコネクター S-063-49-TGG 150 1 150 秋月電子商品ページ
両面ユニバーサル基板 3cm*7cm 40 1 40 秋月電子商品ページ
スズメッキ線 TCW 0.6mm 10m 330 約10cm 3 秋月電子商品ページ
端子台 WJTBD15-06P-13-00A 1 200 1 200 秋月電子商品ページ
合計 19,085 18,335

2024年10月時点の価格です。 ★マークはホームセンターで買った方が安い場合あり。

7.2.工具

工具は高価なものもあるので、制作台数が少ない場合はホームセンターの工作室を借りるなどしてコスト削減することもできます。

品名 規格 価格(円) 購入先
インパクトドライバー 20,061 amazon商品ページ
リューター 3,099 amazon商品ページ
ハンディーカッター MCS0020 1,355 amazon商品ページ
圧着ペンチ HAK15A 5,044 amazon商品ページ
ドライバー 1,390 amazon商品ページ
温度調整機能付きはんだごて 2,099 amazon商品ページ
ニッパー 899 amazon商品ページ
ドリルビット 2.0mm、2.5mm、3.0mm 、3.5mm 899 amazon商品ページ
ポケットテスター PM-3 3,273 amazon商品ページ
合計 42,119

 工具の選定には下記の注意点があります。  インパクトドライバー、リューター、ドライバー、ニッパーは何でもいいです。とくにドライバーとニッパーは100均のもので十分です。ハンディーカッターは別のものでもいいですが、直径3mmのステンレス棒を切断できるものを調達してください。圧着ペンチは別のものでもいいですが、圧着端子(R1.25-3、R8-6)に対応したものを調達してください。温度調整機能付きはんだごては450℃程度まで温度を上げられるものを選んでください。

7.3.周辺機器

  • キーボード
  • マウス
  • ディスプレイ

8.プローブの作り方

プローブ外観.png  プローブはNanoVNAと同軸ケーブルで接続するためのSMAコネクタ、接続用基板(ユニバーサル基板、端子台、ロッドで構成されます。端子台との接続には圧着端子を使用します。

1_端子台穴あけ.png  写真の通り接続用基板取付用の穴2つとロッド取付用の穴3つをあけます。穴の直径はともに3.5mmです。インパクトドライバーと3.5mmドリルビットで穴をあけてください。

2_ロッド圧着.png  次にロッドを制作します。直径3mm、長さ10cmのステンレス棒を3本用意します。ホームセンターでステンレス棒を買う場合1m程度の長さで売っているので、ハンディーカッターで10cmの長さに切ってください。切断後にリューターでステンレス棒の両側を大まかに削って丸く整えてください。この時は手を切らない程度に整えるだけで問題ありません。次に圧着ペンチを使ってR8-6圧着端子をステンレス棒の一端に取り付けます。土が入り込んだり、ステンレス棒が脱落する場合があるので、圧着端子の隙間はんだで埋めます。圧着端子に熱が逃げてしまうため、温度を450℃に設定してはんだづけしてください。

野瀬昌治:目で見てわかるはんだ付け作業、日刊工業新聞社、2009

3_ロッド先端加工.png  ステンレス棒の圧着端子が付いていない側をリューターで削って尖らせます。写真はやや先端が丸いので、もう少し尖っている方がいいです。このようにロッドを3本作ります。

4_Lマッチ回路穴あけとSMAコネクタはんだ付け.png  次に接続用基板を制作します。接続用基板はNanoVNAに繋がる同軸ケーブルとロッドを電気的に接続するためのものです。接続用基板取付用の穴をあけてください。穴の位置は端子台の接続用の穴に合わせてください。ただし、動作そのものには影響しないので、写真のように多少不格好でも問題ありません。写真は完成品とは異なりますが、ここでは穴あけ位置を確認してもらいたいだけなのでご容赦ください。

5_圧着.png  ニッパーでスズメッキ線を5cmほどの長さに切断します。R1.25-3圧着端子をスズメッキ線に圧着します。 スズメッキ線が細く脱落してしまう場合には、圧着端子にはんだ付けして固定します。これを3つ作ります。圧着端子に熱が逃げてしまうため、温度を450℃に設定してはんだづけしてください。

9_接続.png  SMAコネクタでユニバーサル基板を挟みます。SMAコネクタには表裏がありますが、どちらでも問題ないです。基板にSMAコネクタを挟んだら全ての足をはんだ付けします。ここでは便宜的に基板をSMAコネクタで挟んだときに中心ピンが見えない側を表と呼んでいます。  スズメッキ線を接続用基板にはんだ付けします。そして中央のスズメッキ線はSMAコネクタの中心ピンに、他の2本はSMAコネクタの四角の足にはんだ付けします。四角の足はユニバーサル基板の表と裏にありますが、電気的に繋がっているので、片面だけスズメッキ線と足をはんだ付けして接続すれば問題ありません。写真では裏側で接続しています。このとき、はんだごての温度は450℃程度に設定します。はんだ付けが終わったらユニバーサル基板の裏側からはみ出た余分なスズメッキ線をニッパーで切断します。

12_ロッド固定.png  端子台にロッドを3本取り付けます。3つのロッド取付用の穴のどこにどのロッドを取り付けても動作は変わりませんが、できるだけ歪みや汚れが少ないきれいなロッドを中央に取り付けてください。

13_Lマッチ回路基板固定.png 接続用基板を端子台に取り付けます。 プローブ外観.png 接続用基板の圧着端子を端子台に取り付けたら完成です。

11_接続図.png  接続用基板の配線図はこのようになっています。ポケットテスターの導通チェック機能を使って、正しく部品同士が配線されているかチェックしてください。例えば、SMAコネクタの外側の金色部分と3本あるロッドの両側2本は電気的に繋がっています。正しく製作できていれば、導通チェックモードでテスターのリード(赤色と黒色の棒)の一方をSMAコネクタの外側の金色部分に、他方を両端のロッドのどちらかにあてるとテスターのブザーが鳴ります。

9.NanoVNAのキャリブレーション

 NanoVNAでTDR測定するためには、測定条件の設定とキャリブレーションが必要になります。参考資料は下記の通りです。

大井克己:アマチュア無線で大活躍のRF測定器 NanoVNA活用ガイド、CQ出版株式会社、2023、pp.6-11 同軸ケーブルの長さを測る 〜 NanoVNA単体編 NanoVNAを購入してみた

設定条件は次の通りです。今回はできるだけ広い範囲の土壌水分を測れるように測定点数を切り替えながら測定します。

  • START周波数:50kHz
  • STOP周波数:1GHz
  • 波形:LOW PASS STEP
  • 測定点数:101
  • 速度係数:99%

NanoVNA部品一覧_コメあり.jpg まず、NanoVNAのキャリブレーションに必要な機材を用意します。 金色の小さな部品はNanoVNAに付属しているキャリブレーション用の端子(左からopen、short、load)です。 NanoVNAに1.5mの同軸ケーブルを接続します。 NanoVNAの電源を投入します。

Open.jpg ジャック→プラグ変換端子を使ってopenの端子を接続します。

0.jpg NanoVNAの画面を1回タップすると画面右側にメニューバーが表示されます。一番上の「DISPLAY」をタップします。

1.jpg 「TRACE」をタップします。

2.jpg 「TRACE 1」を何回かタップすると「TRACE 1」ボタンの背景が灰色になります。 同様に「TRACE 2」、「TRACE 3」も背景が灰色になるようにタップします。 これで不要な「TRACE 1」、「TRACE 2」、「TRACE 3」を非表示にできました。

3.jpg 「←BACK」ボタンをタップしてひとつ前の画面に戻った後「FORMAT」ボタンをタップします。 初期状態では「LOGMAG」が選択されています。

4.jpg 「→MORE」ボタンをタップして画面を切り替えてから「LINEAR」をタップして選択します。

5.jpg 「←BACK」ボタンをタップしてひとつ前の画面に戻った後「TRANSFORM」ボタンをタップします。

6.jpg 「TRANSFORM OFF」をタップして「TRANSFORM ON」に切り替えます。 また「LOW PASS STEP」をタップして選択します。 「VELOCITY FACTOR」を「99%」に設定します。写真では「70%」になっています。

7.jpg 「←BACK」ボタンをタップして最初の画面に戻った後「STIMULUS」ボタンをタップします。

8.jpg 「START」ボタンをタップするとテンキーが表示されるので「50k」と入力します。 今度は「STOP」ボタンをタップします。再びテンキーが表示されるので「1G」と入力します。

9.jpg 「SWEEP POINTS」を「101」に変更します。写真では「51」になっています。

11.jpg 「←BACK」ボタンをタップして最初の画面に戻った後「CALIBRATE」ボタンをタップします。 画面の一番上の「CALIBRATE」をタップします。

12.jpg 「OPEN」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「OPEN」の前にチェックマークが付きます。 13.jpg

Short.jpg キャリブレーション用の端子をopenからshortに付け替えます。

14.jpg NanoVNAの画面の「SHORT」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「SHORT」の前にチェックマークが付きます。 15.jpg

Load.jpg キャリブレーション用の端子をshortからloadに付け替えます。

NanoVNAの画面の「LOAD」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「LOAD」の前にチェックマークが付きます。 16.jpg

NanoVNAの画面の「ISOLN」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「ISOLN」の前にチェックマークが付きます。 17.jpg

Through.jpg キャリブレーション用の端子のloadを外して同軸ケーブルを繋ぎ、NanoVNAのCH1ポートに接続します。

18.jpg NanoVNAの画面の「THRU」をタップして1秒ほど待つと次の画面のように「THRU」の前にチェックマークが付きます。「DONE」をタップします。

19.jpg 「SAVE 0」をタップします。これでキャリブレーションが完了しました。「←BACK」を何度かタップしてメニューバーを閉じます。

システム構成図_最終形.png 図のように材料を配線します。

10.データロガーの環境構築

まず、マイクロSDカードにOSイメージを書き込みます。 「ラズパイ 環境構築」で検索するとたくさん解説記事が出てきます。

https://note.com/note_is_poo/n/ncb34152ec561

ユーザー名はpi、パスワードはraspberryにしています(デフォルトのまま)。 今回はメジャーなライブラリしか使っていないので、だいたいのバージョンで動くと思いますが、もし動かない場合は下記バージョンのOSをインストールしてください。 OS:Raspberry Pi OS(64-bit) リリーズ日時:2024/7/4 (ちなみに筆者の環境ではRaspberry Pi Imager v1.8.5を使用しました。) OSインストール時にソフトウェアップデートを実行するようにします。

「Ctrl」+「Alt」+「T」でTerminalを起動してください。 下記のコマンドを実行して測定用コードのインストールと必要なライブラリのインストールと設定をします。

アプデ_トリミング.png

~ $ sudo apt-get update
~ $ sudo apt-get upgrade
~ $ sudo reboot

環境構築_トリミング.png

~ $ git clone https://github.com/ebi-gunkan/SoilMoistureSensorTDR.git
~ $ cd SoilMoistureSensorTDR

次のコマンドを実行すると土壌水分が1回測定されます。その後、1時間に1回の頻度で測定されます。 「Ctrl」+「C」が押されるまで測定を繰り返します。

~/SoilMoistureSensorTDR $ bash ./Execute_Measurement.sh

生データはraw_dataフォルダ内に格納されます。 以下のコマンドを実行すると生データから比誘電率を計算します。

~/SoilMoistureSensorTDR $ python3 ./Calc_RelativeDielectricConstant.py

誘電率のデータはrelative_dielectric_constant_dataに保存されます。 波形の確認のために生データも大切に保管してください。

11.動作確認

土壌水分測定.jpg 近所で土を採ってきて風乾します。 それを紙コップに入れ、プローブを挿して測定してみます。 51point.JPG キャリブレーションした状態では図のような波形になります。ただし、土の種類や水分量によって波形は多少異なります。なお、写真は測定点数51点のものです。

t図示.png 拡大するとこんな感じです。

1GHz_101_折り返し_コメあり.jpg 余談ですが、NanoVNAの仕様(?)で反射係数は正の値しか表示されないようです。そのため反射係数がマイナスになるときに折り返して表示されます。なお、USB経由で読み出されるときは正負の区別がつくようになっています。

12.キャリブレーション

 諸泉ら\( ^{9)} \)に倣って、土壌表面での反射波の到達時刻を求めるときにはWinTDRの方法を、プローブ終端での反射波の到達時刻を求めるときは水平線法を使って、比誘電率を求めることにしました。ロッド長は94 mmに設定してあります。変更したいときは「~/SoilMoistureSensorTDR/config/config_data.py」の値を変更してください。

 カップに詰めた土を水を張った容器に静置して飽和させました。その後、乾燥させながら重量と比誘電率を測定することで、体積含水率と比誘電率の関係を調べました。 測定結果は下図の通りです。 ε-θ_未補正.jpg

 測定結果を見ると、Topp\( ^{6)} \)に比べて比誘電率が大きいです。これは接続用基板の寄生容量の影響だと考えられます。一般にTDRセンサーのプローブはロッドと同軸ケーブルを直接はんだ付けして接続します。この方法であれば寄生容量は小さくなりますが、ステンレスのはんだ付けが必要になったり、樹脂によるロッドの固定が必要になったりと、個人で製作する場合にやや難易度が高いです。今回作成したプローブはSMAコネクタや圧着端子、端子台などを使って製作難易度を下げた代わりに部品点数が増えたり、信号の通り道が複雑化して寄生容量が増えたと考えられます。  寄生容量の影響を除去するために、諸泉ら\( ^{9)} \)を参考にロッド長を補正します。諸泉ら\( ^{9)} \)は水と空気の反射波形を調べることでロッド長を補正していましたが、今回使用しているNanoVNAでは空気の反射波形をうまく測定できません。具体的には時間分解能が不足しているため、ロッド始端での反射位置とプローブ終端での反射位置を特定できません。そこで比較的安く購入でき、比誘電率が明らかにされているエタノールを空気の代わりに使用しました。エタノールは健栄製薬株式会社の無水エタノールIP(アルコール分として99.5vol%以上を含有)を使用しました。細かい話をすると純粋なエタノールではないですし、水も蒸留水でなく水道水ですが、手軽に入手できるものがこれしかなかったのでご容赦ください。エタノールは濃度100%で比誘電率が25.00\( ^{13)} \)になるそうです。空気の比誘電率1よりはかなり大きいのでNanoVNAでも十分に反射波形をとらえることができます。ロッド長の補正には下記の式を使います。

\[ \begin{align} K _{ethanol} &= \left( \dfrac{d_{ethanol} - \Delta d}{L \cdot v_{p} } \right) ^{2} \\ K _{water} &= \left( \dfrac{d_{water} - \Delta d}{L \cdot v_{p} } \right) ^{2} \end{align} \]
\[ \begin{align} ただし &\\ K _{ethanol}&:エタノールの比誘電率(-) \\ K _{water}&:水の比誘電率(-) \\ d_{ethanol}&:エタノールに対する見かけの長さ(m) \\ d_{water}&:水に対する見かけの長さ(m) \\ \Delta d&:見かけの長さの決定の際に生じる誤差(m) \\ L&:ロッド長(m) \\ v_{p}&:真空中の電磁波伝搬速度と媒体中の電磁波伝搬速度の比(-) \end{align} \]

 上記の連立方程式から\( \Delta d \)を消して\( L \)を求めます。今回は手配した無水エタノールの濃度を99.5%としてエタノール換算で\( K_{ethanol} \)を25.17としました。\(K _{water} \)は測定時の温度25.2℃から78.5と計算しました。\( v _{p} \)は0.99としました。\( d _{ethanol} \)と\( d _{water} \)は土壌水分センサーを使って水とエタノールを実際に測定した波形から求めます。波形と見かけの長さは下図の通りとなりました。

ロッド長補正.jpg

 \( d_{ethanol} \)は約0.392 m、\( d_{water} \)は約0.827 mとなりました。以上より、修正したロッド長は約113 mmとなりました。結構大きな影響があったみたいですね。それではこの補正したロッド長で試料の比誘電率を再計算して、プロットし直しました。

62_ε-θ.jpg

 だいぶ改善しましたね。実用上は十分だと思います。それとRaspberry Pi Zero 2 Wを使ったことで結果的に材料費は2万円を切ることができました

 以上のことを踏まえると、前編で紹介した端子台を使ったプローブの作り方をする場合はロッド長は補正した方がいいと思います。もしくは宮崎、西村\( ^{2} \)で紹介されている方法で作るのがいいと思います。宮崎、西村\( ^{2)} \)の方法の方が寄生容量が少なく優れていると思いますが、センサー類の自作経験のない方には、製作の難易度を考えると端子台を使ったプローブをオススメします。

 Topp\( ^{6)} \)の比誘電率とは以前として若干の差がありますが、これはロッド長の補正方法の問題(エタノールの純度や水道水の使用)や体積含水率のの測定正確さの問題に依るところだと思います。家庭用のはかりとか容器を使っているので実験室に比べると正確さは劣ると思います。

13.おわりに

 最後までご覧頂き、ありがとうございました。今回紹介した低コストTDR土壌水分センサー+データロガーはいかがでしたか?そこそこ安く、そして十分な性能のものになっていると思います。

 ここで開発の裏話をしたいと思います。2024年の春ごろ、高周波電子回路の勉強をしていたときにNanoVNAのTDR機能を土壌水分センサーに使えることに気が付きました。ただ、NanoVNAのTDR機能を利用するアイデア自体は既にDavidら\( ^{3)} \)によって提案されており先を越されて悔しい想いをしました。今回の記事は科学的な新規性はありません。ただ、NanoVNAのデータをデータロガー用の外部のコンピュータから読み出すシステムを構築し無料で公開したことと、キャリブレーションが必要ではあるがプローブの簡易製作法を提案したことで、微々たるものですが土壌物理学のすそ野を広げることに貢献できたのではないかと思います。

 紹介したシステムを屋外で利用するためには防水・防塵処理や低消費電力化、低コスト化などまだまだ解決すべき課題はありますが、このシリーズの執筆はここらで一旦締めたいと思います。本音を言うと残された課題がいずれもお金と時間が多くかかる割に面白みがやや少ない作業だからです笑。防水・防塵処理は、試作も含めるとケースや接着剤がたくさん必要ですし、低消費電力化はソフトウェア部がかなり大規模になるので一人で作るのは結構大変です。お金と時間が確保できて、かつ続きを見たいという声が多ければ、別の記事で屋外用にシステムを仕上げたいと思います。

 もし屋外で使いたいという方は、以下の作業をしてもらえれば屋外で利用可能になります。

  • プローブ全体を塩ビやポリカーボネートなどのケースで覆って隙間を対候性のある接着剤で埋める。
  • NanoVNAとラズパイの消費電力を賄えるソーラーパネルと3日分くらいの電力を供給できるバッテリーを買う。
  • ウォールボックスとウォールボックス取付用の単管パイプを買ってNanoVNA、ラズパイ、バッテリー、ソーラーパネルそれぞれの格納ないしは取付をする。

 屋外で利用するにしては消費電力が大きめなので、ソーラーパネルやバッテリーの容量は大きくなるとは思いますが、運用自体は問題なくできます。もし、消費電力を減らしたい場合はNanoVNAに内蔵しているSTMマイコンを改造してください。

以上で、材料費2万円で作るTDR土壌水分センサーとデータロガーの総集編は終了です。

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引用・参考文献

1) 宮崎毅、長谷川周一、粕渕辰昭:土壌物理学、朝倉書店、2005、pp.103-105 2) 宮崎毅、西村拓:土壌物理実験法、東京大学出版会、2011、pp.177-182 3) David Moret-Fern?ndez、Francisco Lera、Borja Latorre 、Jaume Tormo、Jes?s Revilla、2022.Testing of a commercial vector network analyzer as low-cost TDR device to measure soil moisture and electrical conductivity.Catena.218、106540. 4) KEYSIGHT TECHNOLOGIES:ベクトル・ネットワーク・アナライザとオシロスコープによるTDR測定の相関の検証と性能の比較 5) 眞鍋秀一、2014.ネットワーク・アナライザを用いたTDR測定の優位性について.MWE2014.WSI12-04. 6) G.C.Topp、1980.Electromaginetic Determination of Soil Water Content:Measurements in Coaxial Transmission Lines.WATER RESOURCES RESERCH.16-3、574-582. 7) 堀野治彦、丸山利輔、1993.3線式プローブによる土壌水分のTDR測定.農土論集.168、119-120. 8) 堀野治彦、丸山利輔、1992.TDRによる土壌の体積含水率および電気伝導度の測定について.土壌の物理性.65、55-61. 9) 諸泉利嗣、楠山倫世、三浦健志、2009.TDR法を用いた土壌中の水分と電気伝導度の同時測定に関する予備的検討.環境制御.31、32-37. 10) トランジスタ技術編集部:RFワールドNo.54 通販ガジェッツで広がるRF測定の世界、CQ出版株式会社、2023、pp.52-59 11) トランジスタ技術編集部:RFワールドNo.13 はじめての無線機測定、CQ出版株式会社、2013、pp.127-132 12) 石村園子:やさしく学べるラプラス変換・フーリエ解析増補版、共立出版株式会社、2010、p.36 13) 明治大学 理工学部 電気電子生命学科 有機分子?バイオ機能材料研究室:Properties of Water(https://www.isc.meiji.ac.jp/~nkato/Useful_Info.files/water.html)、2024/10/12最終アクセス.