1.代かき期間中の必要水量
今回の記事では、代かき期間中の必要水量を求める式の導出過程について紹介したいと思います。
ある水田群の代かきをする方法は、「等面積代かき」と「等水量代かき」があります。
一筆の水田の代かきは1日で完了するのが普通です。
ですが、ある地域の水田群の代かきをする場合は1日1筆ずつ代かきするのではなく、1日に何筆かの水田を代かきして、地域全体の水田を7〜14日程度をかけて代かきするのが一般的です。
そのときに、1日当たりの代かき面積や必要水量を決める方法として「等面積代かき」や「等水量代かき」があります。
水稲の栽培期間のなかで、代かき期間中が一番多くの用水を必要とします。
そのため、代かき期間中の必要水量が用水路の送水能力を決めます。
用水計画では、代かき期間中の必要水量を送水できるように水路などを設計します。
等面積代かき
「等面積代かき」とは、代かき期間中に毎日同じ面積を代かきする方法です。
毎日同じ面積を代かきする方法なので必要水量の計算が簡単です。
等水量代かき
「等水量代かき」は毎日同じ水量で代かきをする方法です。
この方法は代かき期間初日が代かきできる面積が一番大きく、代かき期間の後ろほど1日に代かきできる面積が少なくなります。
この方法は代かき期間中の最大必要水量が等水量代かきよりも少なく済むため、用水路などの規模を小さくできるメリットがあります。
ただし、代かき期間全体で必要な水量は等面積代かきよりも多くなってしまうデメリットもあります。
等水量代かきと等面積代かきの選択
「等面積代かき」と「等水量代かき」のどちらを選択するかは、その地域の事情を考慮して決められます。
例えば、用水をどれくらい確保できるか、用水施設を作る財源がどの程度あるかなどです。
2.代かき期間中の必要水量を求める式
それでは、「等面積代かき」、「等水量代かき」それぞれの式の導出方法について紹介したいと思います。
2.1.等面積代かき
代かき開始後\( r \)日目の必要水量\( q_{r} (m^{3}/d) \)は次式で与えられます。
\[
q_{r} = \left\{ \dfrac{A}{n}q + \dfrac{A \cdot D}{n}(r-1)\right\} \cdot 10
\]
ただし,
\( A \):地区面積\( (ha) \)
\( n \):代かき期間\( (d) \)
\( D \):代かき後の圃場用水量\( (mm/d) \)
\( q \):代かき用水量\( (mm) \)
ここからは導出過程です。
「等面積」代かきなので、地区面積Aを代かき期間n日間で毎日同じ面積ずつ代かきします。
したがって、1日の代かき面積は\( \tfrac{A}{n} (ha/d)\)になります。
当然ですが、代かき開始後\( r \)日目の代かき面積を\( a_{r} \)とすると次式の通りになります。
\[
a_{1} = a_{2} = \cdot \cdot \cdot = a_{r} =\cdot \cdot \cdot =a_{n} = \dfrac{A}{n} = const.
\]
まず、代かき開始後1日目の必要水量\( q_{1} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後1日目の必要水量)&=(1日目の代かき面積) \times (代かき用水量) \\
q_{1} &= \dfrac{A}{n} \times q \times 10
\end{align}
\]
式の最後についている10は単位変換のためです。
代かき開始後2日目の必要水量\( q_{2} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後2日目の必要水量)&=(2日目の代かき面積) \times (代かき用水量) +(代かき済み面積) \times (代かき後の圃場用水量) \\
q_{2} &= \left\{ \dfrac{A}{n} \times q + \left( \dfrac{A}{n} \times 1 \right) \times D \right\} \cdot 10
\end{align}
\]
同様に代かき開始後3日目の必要水量\( q_{3} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後3日目の必要水量)&=(3日目の代かき面積) \times (代かき用水量) +(代かき済み面積) \times (代かき後の圃場用水量) \\
q_{3} &= \left\{ \dfrac{A}{n} \times q + \left( \dfrac{A}{n} \times 2 \right) \times D \right\} \cdot 10
\end{align}
\]
代かき開始後r日目の必要水量\( q_{r} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後r日目の必要水量)&=(r日目の代かき面積) \times (代かき用水量) +(代かき済み面積) \times (代かき後の圃場用水量) \\
q_{r} &= \left\{ \dfrac{A}{n} \times q + \dfrac{A}{n} (r-1) \times D \right\} \cdot 10
\end{align}
\]
変数の並びなどを直すと、以下の通り最初に示した等面積代かきにおける代かき期間中の必要水量の式になりましたね。
\[
q_{r} = \left\{ \dfrac{A}{n}q + \dfrac{A \cdot D}{n}(r-1)\right\} \cdot 10
\]
2.2.当水量代かき
代かき開始後\( r \)日目の必要水量\( q_{r} (m^{3}/d) \)、代かき開始後\( r \)日目の代かき面積\( a_{r} (ha) \)、は次式で与えられます。
\[
\begin{align}
q_{r} &= \dfrac{10 D \cdot A}{1- \left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{n}} = const.\\
a_{r} &= \dfrac{\left( q-D \right) ^{r-1}}{q^{r}} \cdot \dfrac{D \cdot A}{1- \left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{n}}
\end{align}
\]
ただし,
\( A \):地区面積\( (ha) \)
\( n \):代かき期間\( (d) \)
\( D \):代かき後の圃場用水量\( (mm/d) \)
\( q \):代かき用水量\( (mm/d) \)
等面積代かきの時と若干単位が異なりますが、本質的には大した問題ではないので気にしないでください。
さて、ここからは導出過程です。
まず「等水量」代かきなので、どの日も必要水量は同じになります。
\[
q_{1} = q_{2} = \cdot \cdot \cdot = q_{r} =\cdot \cdot \cdot =q_{n} = const.
\]
まず、代かき開始後1日目の必要水量\( q_{1} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後1日目の必要水量)&=(1日目の代かき面積) \times (代かき用水量) \\
q_{1} &= a_{1} \times q \times 10
\end{align}
\]
式の最後についている10は単位変換のためです。
代かき開始後2日目の必要水量\( q_{2} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後2日目の必要水量)&=(2日目の代かき面積) \times (代かき用水量) +(代かき済み面積) \times (代かき後の圃場用水量) \\
q_{2} &= \left( a_{2} \times q + a_{1} \times D \right) \cdot 10
\end{align}
\]
同様に代かき開始後3日目の必要水量\( q_{3} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後3日目の必要水量)&=(3日目の代かき面積) \times (代かき用水量) +(代かき済み面積) \times (代かき後の圃場用水量) \\
q_{3} &= \left\{ a_{3} \times q + (a_{1} + a_{2}) \times D \right\} \cdot 10
\end{align}
\]
同様に代かき開始後r日目の必要水量\( q_{r} \)は次のようになります。
\[
\begin{align}
(代かき開始後r日目の必要水量)&=(r日目の代かき面積) \times (代かき用水量) +(代かき済み面積) \times (代かき後の圃場用水量) \\
q_{r} &= \left\{ a_{r} \times q + (a_{1} + a_{2} + \cdot \cdot \cdot + a_{r-1} ) \times D \right\} \cdot 10
\end{align}
\]
ここで、\( q_{r} -q_{r-1} \)について考える。
\[
\begin{align}
q_{r} -q_{r-1} &= \left\{ a_{r} \times q + (a_{1} + a_{2} + \cdot \cdot \cdot + a_{r-1} ) \times D \right\} \cdot 10 - \left\{ a_{r-1} \times q + (a_{1} + a_{2} + \cdot \cdot \cdot + a_{r-2} ) \times D \right\} \cdot 10 \\
0 &= a_{r} q -a_{r-1} q + a_{r-1} D \\
a_{r} &= \dfrac{q-D}{q}a_{r-1} \\
&= \dfrac{q-D}{q} \cdot \left( \dfrac{q-D}{q} a_{r-2} \right) \\
& \cdot \\
& \cdot \\
& \cdot \\
a_{r} &= \left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^ {r-1} a_{1} \\
\end{align}
\]
\( q_{1} = a_{1} \times q = q_{r}\)より
\[
\begin{align}
a_{r} &= \left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^ {r-1} a_{1} \\
&= \left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^ {r-1} \dfrac{q_{r}}{q} \\
&= \dfrac{(q-D) ^{r-1}}{q ^ r} q_{r} \\
\end{align}
\]
今度は、\( q_{r} \)について考えてみます。\( q_{r}=const. \)より
\[
\begin{align}
A &= \sum ^{n} _{r=1} a_{r} \\
&= \sum ^{n} _{r=1} \dfrac{(q-D) ^{r-1}}{q ^ r} q_{r} \\
&= q_{r} \sum ^{n} _{r=1} \dfrac{(q-D) ^{r-1}}{q ^ r} \\
&= \dfrac{q_{r}}{q} \sum ^{n} _{r=1} \left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{r-1} \\
\end{align}
\]
\[
\begin{align}
A &= \dfrac{q_{r}}{q} \sum ^{n} _{r=1} \left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{r-1} \\
&= \dfrac{q_{r}}{q} \dfrac{1-\left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{n}}{1-\dfrac{q-D}{q}} \\
&= q_{r} \dfrac{1-\left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{n}}{q-(q-D)} \\
q_{r}&= \dfrac{D \cdot A}{1-\left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{n}} =const. \\
\end{align}
\]
\[
\begin{align}
q_{r}&= \dfrac{10D \cdot A}{1-\left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{n}} \\
\end{align}
\]
これを代かき開始後\( r \)日目の代かき面積\( a_{r}\)に代入します。
\[
\begin{align}
a_{r} &= \dfrac{(q-D) ^{r-1}}{q ^ r} q_{r} \\
&= \dfrac{(q-D) ^{r-1}}{q ^ r} \dfrac{10D \cdot A}{1-\left( \dfrac{q-D}{q} \right) ^{n}} \\
\end{align}
\]
3.等面積代かきと等水量代かきの比較
この記事の最初に等水量代かきの方が1日の最大必要水量が少なく、代かき期間全体の必要水量は多くなると説明しました。
実際に計算して確認してみましょう。
地区面積を200、代かき用水量を100、代かき期間を10、代かき後の圃場用水量を10として計算してみます。
等水量代かきの場合、1日の代かき面積が最大になるのは1日目です。
等面積代かきの場合、1日の代かき用水量の最大値が現れるのは代かき期間の最終日です。
等面積代かきの場合、1日の必要水量の最大値は\( 38,000 m^{3}/d\)、代かき期間全体での必要水量は\( 290,000 m^{3}\)です。
等水量代かきの場合、1日の必要水量の最大値は\( 30,707 m^{3}/d\)、代かき期間全体での必要水量は\( 307,070 m^{3}\)です。
確かに、等水量代かきの方が1日の最大必要水量が少なく、代かき期間全体の必要水量は多くなりましたね。
4.おわりに
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
今回の記事の内容はいかがだったでしょうか?
本記事が、かんがい排水の勉強を支える一助になれば幸いです。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう。
今後も農業農村工学(水文学、かんがい排水、土壌物理、水理学)を中に記事を執筆していきたいと思います。
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かんがい排水、灌漑、潅漑、代かき、用水量、必要水量、導出、証明
引用・参考文献
(1) 丸山利輔,五十崎恒,西出勤,村上康蔵,四方田穆,高橋強,三野徹:新編 潅漑排水 上巻,養賢堂,2008,pp.76-78,102.