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ブラネイ・クリドル法の計算方法 ―気温データのみで蒸発散量が計算できる??―
灌漑排水
推定
気象データ
農業農村工学
蒸発散量
簡易手法

1.ブラネイ・クリドル法とは

ブラネイ・クリドル法(Blaney-Criddle Method)は灌漑計画における消費水量を推定する方法として開発されたそうです.この方法は,国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of hte United Nations)の灌漑計画において最も簡便な消費水量推定方法として採用されているそうです.

要は,「蒸発散量がパパっと求められるから,作物に必要な水の量も簡単にわかって便利じゃん!」ということです. 記事のタイトルに「気温データのみで蒸発散量が計算できる??」と書きましたが,正しくは気温データに加え,緯度と作物係数が必要になります.

しかし,気温の測定は他の気象要素に比べて簡単ですし,緯度はGoogle Earthで,作物係数はFAOがデータを公表しているので簡単に調べることができます. 気温データであれば,公開されているものも少なくないです.

途上国のようにインフラが整っておらず,まともにデータが取れない地域でも蒸発散量が求められるというのはありがたいですね.

今回はそんなブラネイ・クリドル法を使って実際に蒸発散位と稲の実蒸発散量を計算してみたいと思います.

計算用エクセルファイルは下記URLからダウンロードできます. ご自由にお使いください. ブラネイクリドル法.xlsm

記事の執筆にあたり以下の書籍を参考にしました.

丸山利輔,石川重雄,大槻恭一,高瀬恵次,永井明博,田中丸治哉,駒村正治,赤江剛夫,堀野治彦,三野徹,武田育郎,金木亮一,渡辺紹裕:地域環境水文学,朝倉書店,2014,pp.37-39.

2.ブラネイ・クリドル法の計算式

蒸発散位は「地表面が丈の短い草で覆われ,水が十分に供給されているときの蒸発散量」と定義されます. 要は,水が十分にあることで蒸発過程に制約が生じていないときの蒸発散量ということです.

ブラネイ・クリドル法では蒸発散位ETpは次式で表されます.

\[ ET _{p}= K _{c} d _{L} \left( 0.46 T _{i} +8\right) \]

ただし,

\[ \begin{align} K _{c} &:作物係数\\ d _{L} &:年可照時間に対する当該月の日平均可照時間の割合(\%)\\ T _{i} &:月平均気温\\ \end{align} \]

また,ある日の可照時間Nは次式で表されます.

\[ \delta =0.4093\cos \left( 0.01689 \left(D-173 \right) \right)\\ \omega _{o} =\cos ^{-1} \left(- \tan\phi \tan \delta \right)\\ N =24 \dfrac{\omega _{o} }{\pi\\} \]

ただし,

\[ \begin{align} D &:1月1日から数えた対象日の通算日数\\ \delta &:太陽赤緯(rad)\\ \omega _{o} &:日没時の時角(rad)\\ \phi & :緯度 \end{align} \]

なお,0.01689(D-173)の単位はradです. ブラネイ・クリドル法は気温,緯度があれば,蒸発散位を求めることができるわけです.便利ですね〜.

3.入力データの用意

3.1.気温

国内であれば,気象庁が公表しているデータで十分だと思います.

気象庁 過去の気象データ・ダウンロード

今回は彦根気象台の2019年の気温データを用意しました.

月平均気温(℃)
1 4.5
2 5.8
3 8.2
4 11.9
5 18.5
6 22.1
7 25.3
8 28.4
9 25.4
10 19.4
11 12.5
12 7.7

海外の場合は「temperature data global」とか「temperature open data」とか検索すればいろんなオープンデータが見つかるかと思います.

3.2.緯度

今回は気象台の所在地情報を見て緯度を確認しました. ちなみに緯度は35°17'です.

気象台の所在(緯度)は気象庁の資料「地域気象観測所一覧」にまとめられています. 彦根の気象台については35ページに書かれています.

気象庁:地域気象観測所一覧

海外や独自で設置した気象観測所のデータを使う場合はGoogle Earth Pro(無料)で調べることができます. Google Earth Proを開いてカーソルを任意の場所に合わせれば,ソフトウェアの右下に緯度経度が表示されます.

3.3.作物係数

作物係数の細かい説明は省きますが,作物係数の主な使い道について簡単に紹介します. 作物係数は作物の各生育ステージに固有の値で,植物の活性を示したものと思っていただければいいです. また,作物係数×蒸発散位が作物の蒸発量に等しいため,簡易な蒸発散量の推定手法としてよく用いられています.

作物係数はFAOが公表している値があるので,それをそのまま使うか適用地域・作物に合わせて校正して使うのが一般的です. この写真の下の方にある表が作物ごとの各生育ステージ(生育初期,成長期,生育中期,生育終期)の長さを表しています.

作物係数は以下のサイトから入手できます.

FAO:Single crop koefficient(Kc)

ブラネイクリドル1.png

↓米の場合は生育初期,成長期,生育中期,生育終期はそれぞれ,30日間,30日間,180日間,40日間となっていますね.

生育ステージ 日数(日)
生育初期(Ini) 30
成長期(Dev) 30
生育中期(Mid) 80
生育終期(late) 40
合計 180

ブラネイクリドル2.png また,対になるデータとして各生育ステージの作物係数Kcの表も載っています. ブラネイクリドル4.png ブラネイクリドル5.png

米の場合は生育初期,生育中期,収穫時の作物係数Kcはそれぞれ,1.05,1.2,0.6〜0.9となっていますね.

生育ステージ 作物係数Kc
生育初期(Ini) 1.05
生育中期(Mid) 1.2
収穫時(End) 0.6〜0.9
合計 180

実はこの作物係数Kcと生育ステージの長さはこのままでは使えません. こんな感じで線形補間して各生育ステージの作物係数を求めることで初めて使えるようになります. ブラネイクリドル3.png

米の場合は作物係数曲線はこんな感じになります.↓ なお,収穫時の作物係数(Kc end)は0.75としています. 作物係数曲線.png

4.計算結果

日可照時間Nはこのようになります. ブラネイクリドル法_エクセル1.png 蒸発散位ETpはこのようになります. ブラネイクリドル法_エクセル2.png

5.ペンマン法との比較

ペンマン法による蒸発散位と比較するとブラネイ・クリドル法のそれはやや過大評価になるようですね. 比較_折れ線.png 比較.png

ただし,実際のところブラネイクリドル法がどの程度正確かについては筆者は知らないです. いざ研究などで使うとなったら,そのあたりも文献レビューする必要がありますね. 加えて,ライシメータや土壌水分減少法などの方法と比較したうえで使うのが無難だと思います.

6.稲の蒸発散量(作物係数法)

ブラネイ・クリドル法で求めた蒸発散位に作物係数をかけると実蒸発散量が求められます. 結果は下図のようになります. このような手順を踏めば,ざっくりではありますが,作物(今回は稲)に必要な水量が求められるということですね. 実蒸発散量_米.png

7.おわりに

ブラネイ・クリドル法による蒸発散量の推定値が妥当かどうか・研究などで実際に使い物になるかについては検証(現場での実験+文献レビュー)が必要ですが,学生が自主学習する分にはハードルが低くちょうどいい手法だと思います. よかったら挑戦してみてください.

計算用エクセルファイルは下記URLからダウンロードできます. ご自由にお使いください. ブラネイクリドル法.xlsm

今後も農業農村工学(水文学,かんがい排水,土壌物理,水理学)を中心に記事を執筆していきたいと思います. リクエスト等も受け付けておりますので,ご遠慮なく連絡ください. Twitterアカウント:エビぐんかん@6LxAi9GCOmRigUI メール:nnCreatorCircle@gmail.com

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